1 弁護士費用補償特約については,別稿で触れました。
行政書士と弁護士法72条に反する契約をした場合,民事上,公序良俗に反して無効になる
ことも,別稿で触れました。
2 これに関連した,大阪高等裁判所の平成26年7月30日付判決があります(自保ジャーナル
1929号159頁)。
これは,交通事故の被害者が,行政書士に支払った費用について,弁護士費用補償特約による
保険金を請求した事案です。
大阪高裁は,行政書士の職務範囲について,次のように認定しています。
「自動車損害賠償補償法15条の規定による保険金請求にかかる書類の作成及びこれについての
相談(書類の体裁,記載事項等について,質問に答え,指示し,または意見を表明する等の行為)
は行政書士の業務として適法であると認められる。しかしながら,その他の事項については,控
訴人の症状に対する治療についての助言や控訴人が本件事故の加害者との間で損害賠償について
示談交渉するにあたっての法的な助言,証拠収集に関する援助というのであって行政書士法に
規定する行政書士の業務の範囲外であるか,弁護士法72条により,原則として弁護士の独占業
務とされているその他一般の法律事件に関する鑑定その他の法律事務の取り扱いに当たるおそれ
がある」
「自動車損害賠償補償法15条の規定による保険金請求にかかる書類の作成及びこれについての
相談業務にかかる適正額については,平成16年4月1日に廃止された日本弁護士連合会報酬等
報酬等基準によると・・・給付額が150万円を超える場合給付金額の2%とされているところ,
・・・控訴人に対する自賠責保険金の給付額は合計344万円であること,行政書士業務には弁
護士業務に比べて制限があることからすると,控訴人が後遺障害等級認定について異議を申立て
等級の変更を受けたという経緯を考慮しても,行政書士の業務対する報酬のうち19万円を超え
部分については相当性があったと認めることはできない。」
3 大阪高裁は,弁護士業務において過去に適正とされていた価格を参考とし,さらに行政書士業
務が弁護士業務より制限があることから,行政書士の適正費用を考えるという理解を示しました。
これによれば行政書士が,書面作成料として数万円から十数万円の料金を取ったうえ,報酬と
して給付を受けた金額の何パーセントもの報酬を請求するのは,行政書士の適法業務内でも取り
すぎということになります。
4 ましてや,適法業務を超えた弁護士法72条に反する業務については,契約自体が公序良俗に
反して無効であり,行政書士費用を支払う必要はなく,すでに支払った費用についても不当利得
として返還請求できます。
行政書士が,被害者の代理人として加害者と損害賠償請求に関する交渉はできません。行政書
士は,同人が作成する書面に「代理人」と表記できないことは理解しています。しかし,中には
これを潜脱するような表現を用いて,加害者と交渉を試みる行政書士もいます。
表向き,依頼者本人が交渉しているようにして,実際は行政書士の法的助言,指示のもと交渉
させていることもあります。
大阪高裁の認定では,被害者が加害者と交渉するにあたって行政書士が法的助言をすることさ
え,弁護士法72条に反することが示唆されています。