1 自保ジャーナルの1939号132頁に,次のような裁判例が掲載されました。
大阪地方裁判所岸和田支部の平成26年6月18日付判決です。少し長くなりますが,
要旨を書かせていただきます。
「原告(行政書士)は,被告(交通事故の被害者)との間に本件委任契約を締結したが,
本件委任契約の内容は,結局のところ,原告に弁護士資格がないのに,成功報酬を得る
目的で,被告の本件事故についての損害賠償請求権を行使してなるべく多額の賠償金の
支払をうけるように交渉し,行動する,というものであったと認められるのであって,
およそ,原告の業務が行政書士法1条の2に認めている業務の範囲である,権利義務
又は事実証明に関する書類の作成業務にとどまるものではなかったと認められる。
そもそも,被告は,本件委任契約締結前から,本件事故について,加害者の加入する
保険会社からの治療費の支払を打ち切られたことに不満を持って,加害者や自らの加入
する保険会社に対して,さらなる損害賠償請求をしようと考えて,弁護士等を探してい
たのであって,被告の欲するところを実現するためには,およそ『権利義務又は事実
証明に関する書類の作成業務』の範囲内での相談や書類作成をすることのみでは達成
できるものではないことは,本件委任契約の締結前の状況からして明らかである。現に
被告は,本件委任契約締結の後に,原告に対し,何度も,慰謝料をいくら受け取れるのか
,などと問い合わせてもきており,行政書士の上記業務内の業務では実現することができ
ないことを被告が求めていることを明らかに原告に伝えており,」
「上記によれば,原告と被告との間の本件委任契約は,弁護士法72条に反するものであ
るから,公序良俗に 反して無効である。」
2 弁護士法72条は,弁護士でない者が,報酬を得る目的で訴訟事件その他一般の法律事件に
関して鑑定,代理その他法律事務を行うことを,刑事罰を持って禁止しています。
そして,弁護士法72条に違反する契約は,民事上は,公序良俗に反して無効である,という
のが,冒頭の大阪地裁岸和田支部の判決を含む一般的な解釈です。
ただし,他に法律で別段の定めがある行為は,同条に該当しないと定め,
行政書士も,行政書士法のよって認められている業務範囲内の行為であれば,「非弁」(弁護
士法72条違反)とはされていません。
3 行政書士法1条の2は,弁護士法72条の除外規定に当たりますが,ここで認められている
のは『権利義務又は事実証明に関する書類の作成業務』の範囲内での相談や書類作成をする
ことのみですので,交通事故の被害者が,加害者からいくらの賠償金が取れるのかなどの相談
を受けることも認められません。
4 弁護士法72条に違反する契約は,民事上,公序良俗違反で無効です。
報酬の支払い前であれば,報酬は支払う必要はありません。
既に支払った報酬については,弁護士法違反をした者にもっぱら不法の原因があると考えら
ますので,不当利得として,返還を求めることができるということになります。