1 個人の破産事件において,免責不許可事由(破産法252条1項,例えば,債権者を害する目的での財産の隠匿・処分,浪費・賭 博その他射幸行為による著しい財産の減少又は過大な債務の負担,裁判所や破産管財人への説明義務違反等など)があっても, 裁判所は,破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責をすることが相当であると認めるときは,免責許 可の決定をすることができます(破産法252条2項)。
これを「裁量免責」といいます。
2 裁量免責の趣旨と判断基準
昨年出されて東京高等裁判所の決定が,裁量免責の趣旨と判断基準について大変参考になります。決定文の一部を引用しま す。
「破産法における破産者の免責は、誠実な破産者に対する特典として、破産手続により弁済をすることができなかった債務に つき破産者の責任を免除し、債権者の追及を遮断することによって、破産者の経済的更生を図ろうとする制度である(最高裁 判所昭和36年12月13日大法廷決定・民集15巻11号2803頁参照)。他方、破産者の責任を免除することは、債権者にとって不 利益な処遇であるから、不誠実な破産者については免責を許可すべきではない。
・・同規定(252条2項)は、免責不許可該当事由が実体的に軽微なものであったり、債権者に対する加害性が少なく、不 誠実性が軽度であるなどの事情があるときには、それらの事情を有利な事情として勘案して、破産者の経済的更生を認める範 囲を広げることを許容する趣旨のものであり、その判断を破産裁判所の裁量的判断に委ねるものであると解される。
以上述べた裁量免責の趣旨等に照らすと、裁量免責の可否を判断するに当たっては、免責不許可該当事由の性質、程度に 加えて、破産原因が生じるに至った経緯、破産手続開始決定後の事情、破産者の今後の生活設計などの要素を考慮し、破産免 責により破産者の経済的更生を図ることが破産者自身にとってはもとより、社会公共的見地からも相当であると評価されるか 否かという判断枠組みを用いるのが相当である。」(東京高裁平成26年3月5日決定(判例時報2224号48頁))
3 実際,他の裁判所が,裁量免責について上記のような基準で判断しているか否かは,分かりません。
しかし,上記のような判断基準もあるということが公になることは,破産免責に関する詳しい文献が乏しい中,破産管財人 や申立代理人のいずれの立場であっても,大変参考になります。