1 破産管財人は,破産者が破産手続開始前に行った「債権者を害する行為」や「特定の債権者への弁済行為(偏頗弁済)」などを否認して財産を取り戻すことができます(破産法160条から176条)。

2 偏頗弁済と否認権

破産者は,支払不能(支払い能力を欠くため,弁済期にある債務について一般的かつ継続的に弁済することができない状態。破産法2条11号)後は,債権者を平等に扱わなければならず,特定の債権者にだけ弁済することは許されません。

破産者Aが,支払不能後に,債権者C,D,E,F,Gのうち,Cのみに対してだけ弁済をした場合,破産管財人Bは,AのCに対する弁済行為を否認し,Cから弁済金の返還を受けることができることがあるのです。「できることがある」というのは,弁済を受けた当時CがAの支払不能を知らなかったときは,否認することができないためです。

3 強制執行で回収しても否認されることがあること

別稿「債権回収(仮差押え)と破産手続」で,仮差押えの効力が破産手続開始決定によって失効することを説明しました。

仮差押え後,民事訴訟を提起して勝訴判決を得,強制執行手続によって債権の回収した後に破産手続開始決定があった場合,債権者が債権回収時に債務者の支払不能を知っていれば,破産管財人によって否認されることがあります。破産法165条が,このことを明示しています(執行行為の否認)。

債権回収に熱心な債権者が,費用と時間をかけて法的手続を実行したにもかかわらず否認されてしまうのです。

4 私も,破産管財人として,何度か執行行為の否認規定を利用して,債権者が強制執行によって取得した弁済金の返還をしてもらったことがあります。

このようなケースで,一番問題なのは,やはり破産者(債務者)側の態度です。

その中には,弁護士に委任してから破産申立てまでに何年も放置したケースもありました。しびれを切らした債権者が強制執行をした途端に破産申立てをしました。

このような場合,破産者(債務者)の代理人である弁護士個人も責任を追及されることがあります。

破産法の目的は,「債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し,もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに,債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ること」です(破産法1条)。

債務者(破産者)とその代理人は,債務者側の利益に偏りすぎることなく,債権者に無駄な手続を取らせないよう,適切に対応しなければなりません。

なお,「申立代理人の責任」については,折を見て別稿にて書かせていただきます。